
「いらっしゃい……おや、あんた。そうか、今夜もトウキョウという名の迷路にさまよった羊がまた一人……まあいいさ、何飲むんだい?」
「……」
「此処は、トウキョウという名の迷路をさまよった羊が疲れ果てた先に行きつくオアシス。SOUND Kさ! そしてこの俺は阿佐ヶ谷ではちったぁ名の知れたナンブ(南部)ってもんだ」
「……」
「あんたスナックは初めてかい?心配することはねぇよ。ここは大抵女はいねぇ、人手不足だからな。スナックなのに……じゃあバーじゃないかって?
ただ酒を出すだけなんて思ってもらっちゃ困るぜ、自慢じゃねぇが家には何てったってカラオケがあるんだぜぇぃ!」
「……」
「この窮屈なトウキョウという名の迷路に疲れちまった人々が魂(SOUL)を燃やしながら歌うのさ、そんなひと時を満喫する。それがここSOUND Kさ!」
「……」
「あんたも疲れた顔してんな……いいぜ!マイクとデンモクはあんたの後ろにある!存分に取ってくれぇー!」
「……」
「……わかるぜ、あんたのオモイ。だが誰もあんたの魂を笑ったりするもんか! いつだって敵は自分の中にいるんだ、どんな奴だってマイクさえ握れば自分と向き合えるもんさ」
「……」
「マイクの電源は入れ忘れるな? 何事もスタートが肝心なのさ。
まぁそんな固くなるもんじゃない、おっと!歌う前に何かとぼやくのは無しだぜ。
どんなに言葉を紡いだところで思ってる事なんてこれっぽちも伝わることなんてないのさ、このトウキョウという名の迷路じゃな。」
「……」
「心配するな。不器用な俺たちには歌だけがいつだってそばにいる、家族のようにな。そうだろ?」
「……」
「すまねぇ、また話が長くなっちまったな、さぁいよいよ始まるぜ?」
「……」
「……」
「……」
「……あぁ、そろそろ店じまいの時間だな」
「……」
「……今日も鳥が鳴いてるなぁカッコウカッコウっよぉ……」

